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80年続く連続ドラマを一緒に見ないか?

野球は人生そのもの。そういうシーンに出くわすと涙もろくなる年頃のプロ野球観戦記。タイトルは中日ファンの作家である奥田英朗さんの名言を一部お借りしています。

2013年9月26日 楽天、優勝

楽天

球場の空気が変わる瞬間がある。

その時のスコアや状況に関係なく、今日は勝つ、という空気がじわじわと拡がり、ぐわーっと球場を包みこむあの瞬間。

野球の神様が降臨したとさえ感じるあの空気感はめったに味わえるものではないが、野球好きとしてあれ以上の至福の時はない。

 

2013年9月26日、西武ドーム
札幌でロッテが負け、埼玉で楽天が勝つと優勝が決まるという試合。

この日はエース田中将大に抑えをさせるという噂があった。

半信半疑だった楽天ファンは翌日の予告先発を見て驚いただろう。

本来のローテーションでいえば田中が先発するはずの試合で、違う投手の名前が告げられたのだ。

明日先発をしないということは今日田中が投げる可能性があるということである。

 

楽天の2点ビハインドのまま6回裏が終了した。

ロッテは3点差をつけて勝っているらしい。

今日の優勝はないかな、と思った時、田中将大ブルペンで準備を始めた。

気付いたファンのざわめきが球場全体に拡がっていく。

星野監督は本気で田中に胴上げ投手を務めさせるつもりらしい。

つまりまだ勝利を諦めていないということだ。

チームが諦めていないのに、ファンが諦めるわけにはいかない。

 

皆が気合いを入れ直したそのとき、札幌に動きがあった。

「日ハムが逆転した!ロッテ負けてるぞ!!」

グラウンドの選手に向かってファンが口々に叫ぶ。

日ハムが逆転したぞー!次はこっちの番だーー!

やや沈滞気味だった空気ががらりと変わった。

ざわめきの中から生まれる勝利への希望。

野球の神様がやってきた。

 

7回表、2アウト満塁から、AJが走者一掃の二塁打を放つ。

スコアは楽天4−3西武。

逆転だ!!

球場を占めていた勝利への希望は確信へと変わり、楽天は優勝に向かって進み始めた。

 

そのまま楽天の1点リードで迎えた9回裏。

札幌では日ハム抑えの武田久が打ちこまれていた。

ロッテに一点差まで詰め寄られ、さらにロッテのチャンスは続いている。

ここでロッテが逆転したら、楽天の優勝はなくなる。

それでも田中将大は投げるのだろうか?

ファンの心配をよそに、ブルペンの扉が開き、田中が出てくる。

球場内のボルテージは最高潮だ。

田中が軽く一礼をしグラウンドに足を踏み入れた時、叫び声が聞こえた。

「札幌、終わった。ロッテが負けた!あとはこっちが勝つだけだ!」

 

最高の投手が最高のタイミングで最高の舞台に上がる。

ここまでくれば奇をてらったことをしなければ勝てる。

そして田中は必要以上に自分を大きく見せたりしないピッチャーだ。

野球の神様はこういう選手が大好きだ。

 

西武ファンも必死に逆転を祈り声援を送るが、野球の神様を味方につけた球場の空気は揺らがない。

1アウト2塁3塁からの圧巻の投球。

見ているだけで背筋に電流が走るストレート。

27000人を超える観客、監督、コーチ、フロント、裏方、そしておそらく野球の神様。

全ての人の視線がマウンドに注がれていた。

 

そんな痺れる空気の中、日本球界最強のエースは、今年一番のガッツポーズを見せた。

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