80年続く連続ドラマを一緒に見ないか?

野球は人生そのもの。そういうシーンに出くわすと涙もろくなる年頃のプロ野球観戦記。タイトルは中日ファンの作家である奥田英朗さんの名言を一部お借りしています。

2013年10月13日 桧山進次郎、現役最後の打席でHRを放つ

「僕にも野球の神様がついていてくれたのかな。」

桧山進次郎は現役最終打席で放ったホームランをそう振り返った。

このとき桧山は、10月8日に行われた横浜DeNA戦を思い出していた。

阪神のレギュラーシーズン最終戦であり、横浜の小池正晃引退試合でもあった一戦である。

 

 

引退試合に先駆けて会見を行った小池は、現役最終打席について問われてこう答えていた。

「理想はホームランですが、まともに立っていられるかもわからないので、とにかく全力のスイングをしたいです」

それまでに小池が13年間のプロ生活で打ったホームランは53本。

1年間で60本打ったヤクルトのバレンティンは別格としても、強打者と呼べる成績ではない。

これは小池自身がチームバッティングで生きることを選んだ結果なのだが、もともとはパワーのある選手。やはり最後は思いっきりバットを振りたいのだろう。

 

そんな小池の最終打席。

目に涙が浮かび、まともに球が見えていないだろう状況で、言葉通りの全力のスイングをした。

あまりに全力過ぎて勢い余ってよろめき、慌てて走りだす視線の先で、打球はレフトスタンドに吸い込まれていった。

涙を流しながら、ゆっくりとダイヤモンドをまわる。

小池はこの日、4打数3安打うちホームランが2本という輝かしい成績で現役生活を終えたのだった。

 

この劇的な引退試合を目の当たりにして、桧山は胸を熱くした。

試合後、こう語っている。

「小池はずっと、がんばってきてね。ここで2本打つんだから。野球の神様もいるんやなと思った」

既に終了した桧山自身の引退試合では、打ちたいという気持ちがスイングを固くして外野フライ2本と一塁ゴロという散々な成績だったのだ。

 

しかし阪神にはまだCSが残っている。桧山が打席に立つチャンスはまだある。

 

そして今日、ついに桧山にも現役最終打席が訪れた。

9回裏、2アウト。

代打を告げられた桧山がゆっくりと打席に向かう。

阪神は5点差で負けており敗色濃厚。

桧山もこれが自身の最終打席と分かっているのだろう、プレッシャーのないすっきりとした表情で打席に入り、ミコライオの投じた2球目に向かって無駄な力を入れずにバットを振りぬいた。

打球はぐんぐんと伸びていく。

打った本人も驚くほどボールは伸び、阪神ファンの待つライトスタンドへ飛び込んでいった。

 

桧山はこの2年ぶりのホームランについてこう話した。

「正直、あまりにもいい打ち方ができすぎて、自分でも驚いた。 もう一回、ああいう打ち方をしろと言われてもできない。22年間で一番のホームランかもしれんね」

最後の最後に、野球の神様は桧山に微笑んだのだ。

 

野球の神様は、頑張らない選手のところには来ない。

気合が入りすぎて身体が固くなっている選手のところにも来ない。

人事を尽くして天命を待つ、とはこういうことなのだろうと思う。

そして気づく。

人事を尽くすことより、無心になって天命を待つことのほうが難しい、ということに。